溝入敬三コントラバス劇場

王様好きなコントラバス

 たくさんのコントラバスが集まって相談した結果、自分たちに王様がいないのはおかしい。神様にお願いしようということになりました。
 全てをお見通しの神様は、願いをかなえてやるために、地上に大きなドラム缶を落としました。天から降って来たドラム缶は、凄まじい音を立てましたから、コントラバス達は肝をつぶして逃げ出しました。そして遠巻きにして長い間見ておりました。しかしいっこう静かなので、近寄って覗いてみましたら、中は空っぽでした。
 みんな笑いながら集まって来ると、てんでにドラム缶を叩いたり、上に座ったりして馬鹿にしました。そしてとうとう、かようなものを王様に戴いておくのを恥ずかしく思い始めたのです。
 再び神様にお願いしました。
 「神様、このあいだの王様は、何もしません。少々呑気過ぎます。脳味噌も一欠片も入っていません。新しい王様と取り替えて下さい。」
 それを聞いた神様は、ひどく腹を立てられました。それで、よりによって、ドラム缶の王様の代わりに、本当によりによって、指揮者を地上に送ってしまったのです。
 それからコントラバスは、一生を指揮者にいじめられて暮らすことになったということです。

 この話は、掻き乱したり悪い事をしたりする支配者たちよりも、馬鹿でも悪くない支配者たちを戴く方が優っている、ということを明らかにしています。

(音のイソップより)
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# by Keizo-MIZOIRI | 2007-09-11 12:18 | 物語

ででんがでん

 昨夜、Den3(尺八/田辺領山、琴/木田敦子、丸田美紀)の演奏会でした。一日ずれていたら颱風のまっただ中、きっと客席に身内ばかり数人が座っていたに違い有りません。ところが昨日の7日は、午前中こそ曇っていましたが、午後は真夏日、これもこまりますが、とにかく大変良いお天気でした。そのせいも少しはあったでしょう。彼らの第三回目の演奏会は、前回にもまして超満員! 事務所から椅子を運ぶ始末。着々とファンが増えて来ているようです。
 前半は、各自のルーツを披露するソロ。丸田美紀さんによる沢井忠夫作曲 「讃歌」、田辺領山(たなべしょうざん)さんによる山本邦山作曲「甲、乙」(かん、おつ)、木田敦子さんによる宮城道雄作曲「手事」。どれも見事な演奏で、この三人がかなりの強者(つわもの)音楽家だということを証明しました。
 休憩を挟んで後半は、新作二曲。最初が拙作『ででんがでん』(尺八、十三絃、十七弦のための)でした。田圃の付いた名前の人達からの委嘱でしたので、真っ先に浮かんだのが、尖(とんが)った前衛でなく、牧歌的な曲。しかしあの猛暑だったでしょ。脳味噌が煮詰まってしまい、書いてはボツ、ちぎっては投げ、の修羅場をくぐり抜けますと、タリラリラーンと何も書けないでぼーっと汗をしたたらせるだけの毎日。結局は、牧歌的というよりは、図分と時間軸が溶けた、もうどうでもいいよ〜んと弛緩した曲になったようです。
 しかし演奏家は偉かった。あのだらけた洋楽譜を、極東のどこかの国の民族音楽みたいに仕上げて下さった。会場には、田圃を渡る風がゆるゆると、そして湿気た土の匂いまで淀むようでした。・・・エアコンの効きが悪かっただけ? まっ、とにかくお客様の反応も上々でしたよ。
 二曲目、高橋久美子作曲『朱雀(suzaku)』(尺八、筝、十七絃のための)も面白かった。彼女は、いつも独自の才能で楽しませてくれますが、今回はこのトリオでストラヴィンスキー「春の祭典」の響きに挑戦。オリジナルとは全然違うメロディーなのですが、ボルシチにキムチを入れたような?変な空間ができました。
 次のDen3公演は来年の5月。目が離せませんよ。c0138893_20191021.jpg
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# by Keizo-MIZOIRI | 2007-09-08 20:22

KEIZO9月のスケジュール

☆9月7日(金)『ででんがでん』

新作の邦楽曲のタイトルが
『ででんがでん』〜尺八、十三絃、十七弦のための
です。演奏してくれるのがDen3というグループで尺八/田辺領山、琴/木田敦子、丸田美紀 各氏、つまり田んぼばっかりの名前なのです。ライステラス=棚田なんてタイトルにしようかとも思ったんですが、こんなことにしました。内容とは全然関係ないのです。
久し振りにテキストなし、つまり語りなしの純粋(不純かも?)器楽曲です。乞うご期待!
さてそのスーパー名人達の演奏会のお知らせ。大仰な名前の会場ですが、邦楽界では大手の出版社です。

Den3+ライブ Vol.3 〜二つの新作

委嘱初演 
『朱雀(suzaku)』 尺八、筝、十七絃のための 高橋久美子

委嘱初演
『ででんがでん』 尺八、十三絃、十七絃のための 溝入敬三

尺八独奏曲
「甲、乙」 山本邦山

琴独奏
「讃歌」  沢井忠夫
「手事」  宮城道雄

日時/2007年9月7日(金)19時開演
場所/大日本家庭音楽会スタジオ
千代田区内神田1-15-10福島ビル地下1階
tel.03-3294-7701 fax.03-3294-7702
入場料/3000円(前売2500円)


☆9月16日(日) 17日(月)
KEIZO in 名古屋&岐阜



怒濤のベーシスト金澤英明(日野皓正グループや近藤房之助バンド、コジカナツルで大活躍)と、あの繊細かつパワフル石井彰(大阪音大作曲科卒、日野皓正グループやリーダーグループで活躍中)との豪華ツーベーストリオをやります。クラシック、現代音楽、タンゴ、おそらくジャズ・・・それからそれから

溝入敬三(コントラバス)
石井彰(ピアノ)
金澤英明(ベース)

2007年09月16日(日)開場6時 開演8時  前売り¥3500 当日¥4000
名古屋 「Star Eyes」052-763-2636
http://www.stareyes.co.jp/map/map.html

2007年09月17日(月) 開場3時30分 開演4時 ¥3500
多治見「アートスペース ホリエ」0572-23-8402
http://artspace-horie.com/hall/index.html
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# by Keizo-MIZOIRI | 2007-09-06 19:19 | 演奏予定

ツィンマーさんのパン

『ツィンマーさんのパン』

 私は、東ドイツM市の中央広場で、呆然と、明かりの消えた楽器屋を覗き込んでいた。音楽祭のあるM駅のつもりが、手前の似た綴りの駅で下車してしまい、次の電車もなく、宿もなかった。駅で眠るかと思い始めた頃、楽器屋の奥から彼が出て来た。顔中髭だらけでツィンマーさんと言った。小さいが宿もやっており、朝食付きで、値段も格安。やはり音楽祭に来た、二人のベーシストも泊まっていた。
 すぐに横になったが、夜中喉が渇いて目が覚め、何か探しに階段を下りた。奥は、まだ明るかった。ドアの隙間から覗くと、大きなツィンマーさんが街を見下ろしていた。2m四方程の壁で囲まれた、この街のようだが、精巧なジオラマである。中に、小さな耕耘機、鋤や鎌、小さな人形を何体か置き、ヴァイオリン型の酒瓶に入ったシュナップスを振りかけると、それらは、きびきびと動き始め、耕し、種を撒き、芽が出、小麦が実ると、それを刈り取り、脱穀し、製粉機も動き始める。瞬く間に、一抱え程の小麦粉ができた。彼は、それでパンをこね始めた。私は、そこまで見ると、そっと部屋に戻った。
 グーテンモルゲン!とノックする音で起こされた。結構な時間っだので、ばたばたと身支度し、焼きたてのパンの香りを後に、電車に飛び乗った。
 音楽祭の間、演奏会やパーティーで多くの音楽家と会ったが、同宿だった二人のベーシストには再会できなかった。私は、それが気になり、もう一度あの店に行くことにした。
 ドアを開けると、ツィンマーさんは、顔中髭を波打たせて抱きつき、その夜は甘いビールとチーズで歓迎してくれた。夜中に覗くと、前回と同じだった。
 朝食の席に着いた私は、そういえばといって、昨日買っておいたパンを出した。そして彼が、苦いコーヒーを取りに行った隙に、パンをすり替え、まあ私のも一口と勧めたのだ。一口かじったとたん、彼はコントラバスになった。かなり大きく、ヘッドに熊の頭の彫刻が施され、素晴らしい音がした。私は、それを持ち帰り、その楽器を抱えて世界中を飛び回った。
 数年後、青山の裏通りを歩いていると、白髪の老人が近づいてきて、「やあ、ツィンマー!こんなところにいたのか?」と笑い転げた。そして涙を拭きながら、「彼も、もう反省したそうだ。そろそろ許してやって下さらんか?」と言って、懐から出したシュナップスをコントラバスに振りかけた。すると、あの日と同じ格好でツィンマーさんが現れた。彼は、そのまま走って小さな路地に姿を消した。振り返ると、老人も消えていた。私は、その晩のライヴでは、小屋の楽器を借りた。

 radio-zipangu.comni掲載された文章を転載。もとは唐代の伝奇小説の一つ、薛漁思「板橋三娘子」。恐れ多いが、格調高い泉鏡花『高野聖』も同じ話が下敷きになっている。c0138893_1953733.jpg
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# by Keizo-MIZOIRI | 2007-09-06 19:08 | 物語



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