溝入敬三コントラバス劇場

カテゴリ:物語( 6 )

『半年後のトロンボーン』

 失意のトロンボーンは、近所の神社のお百度参り、四国八十八ヶ所お遍路さん、比叡山に延暦寺、目白カテドラル教会に銀座中央教会と、宗派も考えず、もう一度女神にお願いしようと走り回りました。女神は、あまりのうるささに耐えかね、どうしても分解掃除をする時は、一人でお風呂の中ですること、との条件をつけて、再度若者に変えてやりました。
 若者は、今度は注意深く暮らします。さていざベッドへ入りますと、元トロンボーンだけに、抜き差しに長けておりまして・・・(この部分は、まっちゃん@シリウスさんとウルドさんのご意見採用)・・・(点々は時間の経過を表し、詳細を省略する)・・・(女神も、ツバを飲み込みながら覗いてしまいました)・・・そして二人は、ぐっすりと眠ってしまいました。
 そうしましたら彼は、窓ガラスも割れよと凄まじい音量で鼾をかいたのです。(この部分、ジーザス鳥羽さんの意見採用)象の遠吠えと、消防車の群れでございます。やれやれ。女神は、やはりそうか、と、ため息をつこうとしたその時、隣で寝ていた彼女も寝ぼけたまま、その音にインスパイヤーされて、オペラアリアを歌い始めたのでした。ヴェルディでございましたか?深夜の町内会は、みんな起きだしてしまいました。彼女は、ソプラノ歌手だったのです。
 女神は、くすっと笑って、似た者同士だから、ま、良いか、と思いました。

(「音のイソップ番外編」)
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by Keizo-MIZOIRI | 2007-11-15 11:17 | 物語

『女神とトロンボーン』

  一台のトロンボーンが、一人の女の人を好きになっていまい、女神に、どうか自分を人間にして下さいと、お願いしました。女神は、たいそう不憫に思い、トロンボーンを美しい若者に変えてやりました。おかげで若者は、彼女に愛を伝えることができ、めでたしめでたし。しかし女神は、一抹の不安を感じていたので、ずっと彼を見守っていました。
 若者が、ベッドへ入ろうとした時です。彼は、首をするすると延ばして抜くと、体を分解し始めました。それを見た女神は、ため息をついて、魔法を解いてしまいました。
 これは、物事の本質を変えるのは難しいということです。

(KEIZO『音のイソップ』より)
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by Keizo-MIZOIRI | 2007-11-14 18:04 | 物語

『トライアングル』

 神様達が集まって相談した結果、いつもいつも、つまらない仕事でも一生懸命にやっているトライアングルを呼んで、褒めてやろうということになりました。トライアングルは、謙虚ですから、神様の前に出ますと、一人一人丁寧にお辞儀をしました。しかし福の神の前に出ますと、くるっと背を向けてしまいました。それを見たある神様が、どうして福の神にだけお辞儀しなかったかと尋ねました。トライアングルは言いました。福の神が、指揮者と大変懇意にしているのを知っていますから。

(11/1に公園通りクラシックスでエレキベースの弾き語り曲「音のイソップ」の中の一曲として発表したテキスト。)
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by Keizo-MIZOIRI | 2007-11-13 11:51 | 物語

トントラバス<tontora-bass>

 最近、南米大陸を旅してきた友人から、面白い話を聞いた。アマゾン最大の淡水魚「トントラバス」である。写真を見せてもらったが、こういうものを見た時に現地では「オーパ!」と言うらしい。バス=鱸(すずき)類で、2メートルくらいある。トントラバスを抱え上げている二人の漁師は、背の高いストゥールに乗っているが、それでも尻尾は地面に横たわっているという代物だ。もっと大きいものも珍しくないという。顔は、扁平に潰れていて、小さな眼で、とても器量よしとはいえない。見ようによっては、お人好しの豚。ピンク色の体には、鮮やかな黄色の縞模様があり、ピンクパンサー(豹)ならぬピンクタイガー(虎)である。こんな容姿から、日系人が「豚虎バス」と呼びはじめたという。現在では、この“tontora-bass”といユーモラスな名前のほうが一般的で、他の名前も教わったが、私は忘れてしまった。また、姿からは想像しにくいが、貴重な蛋白源で、長い時間かけて焚き火で丸焼きにしたものを食べたが、かなり美味しかったらしい。こういう、絶対に自分が食べることができないものの話を聞かされるのは、非常に悔しい。
 まあそれは置いておいて。このトントラバスは、夜になると、広いアマゾン河の岸から少し離れた辺りにやって来て、妙なる声で歌うのだそうだ。最初は、一匹がボーッと低い長い声で鳴く。コーラの瓶に息を吹き込むと鳴る、あんな音を複雑にしたような感じらしい。とにかく大変悲しそうな声で、その声に引かれて、別のトントラも集まって来る。そして、いっしょになって鳴き始める。大体同じくらいの低音域だが、固体によってピッチや音色も微妙に違うので、面白い音らしい。それらが徐々にうまく響き合ってくると、非常に高い倍音が発生し、フルートの緩やかなアルペッジョみたいな音が聞こえる。こういった音を音響学では差音というが、これが、河の上空に浮かんで聞こえるというのだ。その微妙に変化し続ける響きは、河岸にこだまし、それを聴きながらグラスを傾ける。友人は、そんなうらやましい話をした。そして「星空の下でそれを聴いていたら、ふと、おまえの演奏会で聴いたコントラバス四重奏を思い出して、あれにそっくりだと思った」と言った。そんな素敵な音と比べられたらコントラバスも名誉なことだ。
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by Keizo-MIZOIRI | 2007-10-10 16:24 | 物語

王様好きなコントラバス

 たくさんのコントラバスが集まって相談した結果、自分たちに王様がいないのはおかしい。神様にお願いしようということになりました。
 全てをお見通しの神様は、願いをかなえてやるために、地上に大きなドラム缶を落としました。天から降って来たドラム缶は、凄まじい音を立てましたから、コントラバス達は肝をつぶして逃げ出しました。そして遠巻きにして長い間見ておりました。しかしいっこう静かなので、近寄って覗いてみましたら、中は空っぽでした。
 みんな笑いながら集まって来ると、てんでにドラム缶を叩いたり、上に座ったりして馬鹿にしました。そしてとうとう、かようなものを王様に戴いておくのを恥ずかしく思い始めたのです。
 再び神様にお願いしました。
 「神様、このあいだの王様は、何もしません。少々呑気過ぎます。脳味噌も一欠片も入っていません。新しい王様と取り替えて下さい。」
 それを聞いた神様は、ひどく腹を立てられました。それで、よりによって、ドラム缶の王様の代わりに、本当によりによって、指揮者を地上に送ってしまったのです。
 それからコントラバスは、一生を指揮者にいじめられて暮らすことになったということです。

 この話は、掻き乱したり悪い事をしたりする支配者たちよりも、馬鹿でも悪くない支配者たちを戴く方が優っている、ということを明らかにしています。

(音のイソップより)
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by Keizo-MIZOIRI | 2007-09-11 12:18 | 物語

ツィンマーさんのパン

『ツィンマーさんのパン』

 私は、東ドイツM市の中央広場で、呆然と、明かりの消えた楽器屋を覗き込んでいた。音楽祭のあるM駅のつもりが、手前の似た綴りの駅で下車してしまい、次の電車もなく、宿もなかった。駅で眠るかと思い始めた頃、楽器屋の奥から彼が出て来た。顔中髭だらけでツィンマーさんと言った。小さいが宿もやっており、朝食付きで、値段も格安。やはり音楽祭に来た、二人のベーシストも泊まっていた。
 すぐに横になったが、夜中喉が渇いて目が覚め、何か探しに階段を下りた。奥は、まだ明るかった。ドアの隙間から覗くと、大きなツィンマーさんが街を見下ろしていた。2m四方程の壁で囲まれた、この街のようだが、精巧なジオラマである。中に、小さな耕耘機、鋤や鎌、小さな人形を何体か置き、ヴァイオリン型の酒瓶に入ったシュナップスを振りかけると、それらは、きびきびと動き始め、耕し、種を撒き、芽が出、小麦が実ると、それを刈り取り、脱穀し、製粉機も動き始める。瞬く間に、一抱え程の小麦粉ができた。彼は、それでパンをこね始めた。私は、そこまで見ると、そっと部屋に戻った。
 グーテンモルゲン!とノックする音で起こされた。結構な時間っだので、ばたばたと身支度し、焼きたてのパンの香りを後に、電車に飛び乗った。
 音楽祭の間、演奏会やパーティーで多くの音楽家と会ったが、同宿だった二人のベーシストには再会できなかった。私は、それが気になり、もう一度あの店に行くことにした。
 ドアを開けると、ツィンマーさんは、顔中髭を波打たせて抱きつき、その夜は甘いビールとチーズで歓迎してくれた。夜中に覗くと、前回と同じだった。
 朝食の席に着いた私は、そういえばといって、昨日買っておいたパンを出した。そして彼が、苦いコーヒーを取りに行った隙に、パンをすり替え、まあ私のも一口と勧めたのだ。一口かじったとたん、彼はコントラバスになった。かなり大きく、ヘッドに熊の頭の彫刻が施され、素晴らしい音がした。私は、それを持ち帰り、その楽器を抱えて世界中を飛び回った。
 数年後、青山の裏通りを歩いていると、白髪の老人が近づいてきて、「やあ、ツィンマー!こんなところにいたのか?」と笑い転げた。そして涙を拭きながら、「彼も、もう反省したそうだ。そろそろ許してやって下さらんか?」と言って、懐から出したシュナップスをコントラバスに振りかけた。すると、あの日と同じ格好でツィンマーさんが現れた。彼は、そのまま走って小さな路地に姿を消した。振り返ると、老人も消えていた。私は、その晩のライヴでは、小屋の楽器を借りた。

 radio-zipangu.comni掲載された文章を転載。もとは唐代の伝奇小説の一つ、薛漁思「板橋三娘子」。恐れ多いが、格調高い泉鏡花『高野聖』も同じ話が下敷きになっている。c0138893_1953733.jpg
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by Keizo-MIZOIRI | 2007-09-06 19:08 | 物語



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